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東京高等裁判所 昭和32年(う)2147号 判決 1962年11月05日

被告人 吉田森久 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

原判決が罪となるべき事実第一において、被告人吉田は木下真、高桜勝治と共謀の上駐留軍軍人より譲り受けた昭和二七年法律第一一二号第六条所定の関税免除物品であるキヤデラツク一九五一年式普通自動車(原動機番号五一六二四七一四九)の関税を逋脱しようと企て、昭和二八年四月六日大阪市所在大阪府陸運事務所において同事務所係員に対し、偽造に係る「東京税関支署」と刻した印章を使用して、右自動車に対する輸入通関手続が完了している事実を証明する東京税関支署の作るべき偽造の輸入免許書一通を真正に成立したもののように装い中島弘産業株式会社名義の右自動車の新規登録申請書に添付して提出し、因つて同事務所係員をして同日道路運送車両法第九条の規定により所有者を右中島弘産業株式会社とする新規登録を行わしめ、もつて右自動車(原価九十五万六千五百二十円)に対する関税三十八万二千六百円を逋脱した旨判示したことは所論のとおりである。所論は、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和二七年四月二八日法律第一一二号)第一一条、第一二条、関税法第二条の各規定を総合考察すれば、輸入譲渡の時期即ち関税法逋脱の時期は、関税免除物品たる自動車につき譲渡人と譲受の契約をなし、政令で定めるところにより税関に申告し、当該物品の検査を経て譲渡の許可を受けた時とすべきであるのに、原判決が新規登録の時をもつて関税逋脱の時期としているのは法令の適用を誤つたものであると主張する。よつて案ずるに、昭和二七年四月二八日法律第一一二号日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(以下臨時特例法という)第一二条、第一一条、旧関税法第三一条、第三四条、新関税法第六七条、第七二条等の規定によれば、臨時特例法第六条の規定の適用を受けた物品の日本国内での譲受は輸入とみなされること、輸入(譲受)をしようとするときは、税関に輸入(譲受)申告し、貨物の検査を経て、関税を納付の上、輸入免許(許可)を受け、しかる後に引き取ることと定められており、又合衆国軍人等が前記物品を譲渡しようとするときも同様税関に申告し、貨物の検査を経て、譲渡の免許(許可)を受けなければならない旨規定せられているので、前記のような物品については、税関手続を経た上でないと、その譲渡及び譲受はできない定めになつているのであるが、記録によれば、本件発生当時に在つては合衆国軍人等が臨時特例法第六条の規定の適用を受けた物品を譲渡するについては駐留軍憲兵隊の譲渡許可がなければこれをすることができないことになつており、その手続が終つて必要書類が譲受人に渡され、自動車と代金の取引が完了し、税関手続はその後になされるのが一般であり、前示のように税関の事前免許(許可)が建前であるにかかわらず取引の方が先行するのが実情であつたので、税関においても自動車を引き取つてから後に税関手続の申告をして来た場合、その申告を受理して免許(許可)をした事例があり、これを違反として取扱わないことにしていた情況が窺われるのであつて、これらの情況から考察すると、駐留軍軍人等より臨時特例法第六条の規定の適用を受けた自動車を譲り受ける場合には、一般有税品の輸入の場合とは異り、単に税関手続を経る前に該自動車を引き取つたという一事をもつて直ちに犯意ありとして逋脱罪が成立すると解するのは妥当でなく、税関手続を経ないで、該自動車の新規登録を受けるため、偽造の輸入免許書、偽造の輸入証明書、偽造の通関証明書を使用する等不正の方法で陸運事務所に登録申請をするとか、又は偽造の自動車登録原簿を陸運事務所に備え付けさせてあたかも正規の手続により通関したもののように見せかけるため、閲覧申請をして交付を受けた陸運事務所備え付けの自動車登録原簿を返還するにあたりこれとすり換えて偽造の自動車登録原簿を右事務所係員に渡す等関税逋脱の犯意が外部に表現された時をもつて逋脱罪着手の時期とし、右のような不正行為により陸運事務所係員をして該自動車の新規登録を行わしめた時、又は偽造の自動車登録原簿を真正なものとして陸運事務所に備え付けさせた時をもつて逋脱罪既遂の時期と解するを相当と考える。してみると、本件各自動車がいずれも臨時特例法第六条の規定の適用を受けたもので、それが駐留軍軍人等より日本国内で譲り受け引き取つたものであることは記録上認められるのであるが、関税逋脱罪はその引き取りの時直ちに成立するものではなく、被告人等が共謀の上該自動車の新規登録を受けるため陸運事務所に偽造の輸入免許書(判示第一、第二、第六の(二)、第十一の(二)、第十二の(二)、第十六の(二)の場合、偽造の輸入証明書(判示第三の(二)、第四の(二)、第五の(二)、第七の(二)、第十の(二)、第十三の(二)、第十五の(三)、第二十四、第二十五の(二)、第二十七、第二十八の(二)、第二十九の(二)、第三十一、第三十二の(二)、第三十四、第三十六の場合)を提出した時、又は陸運事務所に閲覧申請をして交付を受けた自動車登録原簿を係員に返還するに際し偽造の自動車登録原簿とすり換えて交付した時(判示第四十の(二)、第四十一の(二)の場合)をもつて逋脱の犯意が表現されたものとして逋脱罪の着手の時期と解し、因つて陸運事務所係員をして当該自動車の新規登録を行わしめた時、又は偽造の自動車登録原簿を右事務所に備え付けさせた時をもつて逋脱罪既遂の時期と解するを相当とすべきであつて、これと同趣旨に出たと認められる原判決の法令の解釈適用は正当である。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)

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